はじめに

日本維新の会と自民党の連立合意書に基づき、今年度中に外務省に和平調停に関する部署が設置されることになりました。これから党内の本格的な議論も始まります。

これまで国連や日本政府の立場で紛争に関わってきた感覚では、軍事中心で行われてき和平調停に、ノウハウゼロの日本が関わるのは今のままでは難しいといえます。

一方、日本は世界の多くの国々から見た時の信頼感や中立性に優れ、ODAを通した支援力などソフトパワーでは世界随一の国です。

そのため、今の和平調停の仕組みの中にどう参画するかという視点ではなく、日本の強みを活かした新たな和平調停の形を考えていくことで、新たな境地を開く可能性はあると思います。

国際社会でもこれまでの欧米主導の和平調停の在り方が全て正しかったとは評価されておらず、新たな提案は強く待ち望まれています。

以下、なぜ今の日本は難しいのか、どこに突破口があるのか、何をモデルにすべきかなどについてまとめてみました。


1.現状:日本は「和平調停の専門ノウハウ」をほぼ持っていない

日本政府はこれまで大規模な和平仲介を主導した経験が少なく、以下のような状況にあります。

① 外務省に紛争調停の専門部署がない

地域局(欧州局、中東局など)はありますが、「和平交渉のスペシャリスト」を育てる仕組みがありません。欧米にあるSpecial Envoy(特使)制度、Mediation Unit(紛争仲介室)、Track1.5・Track2外交の専門家育成などがほぼ存在しません。

② 日本外交は“経済支援中心”で、調停の文化が弱い

日本外交の強みは政府開発援助(ODA)を中心とした、経済・インフラ支援や技術協力です。これらは和平交渉の交渉術や危機管理・停戦管理とは全くの別物です。

③ 紛争多発地域(中東・アフリカなど)に強い日本人材が少ない

アラビア語、ペルシャ語、アフリカ民族・部族政治、イスラエル・パレスチナ調停経験といった分野の専門官は非常に少ない状況です。

今すぐ欧米と同じような和平調停のオペレーションを行うのは困難です。


2.日本は新たな和平調停の型を創る可能性を秘めている

従来型の和平調停の経験とノウハウがない一方で、日本は独自の強みも持っています。

① 日本には仲介役に向いた資質が揃っている

和平調停は軍事力ではなく「信用」で決まります。
その意味で、日本は世界的に例外的なポジションにあります。

●大規模な援助国(ODA) → 恩恵を受けている国が非常に多い
●侵略の可能性がほぼない 
→ 中東・アフリカなどで敵対感情がない
●武器輸出国でない → 戦争特需の利益が絡まず、信頼される
●政治的に中立 → アメリカでも中国でもない独立ポジション

これは米国・中国・ロシア・EUなどの大国・地域には真似できない日本だけの「外交資産」です。

② 国際社会は今、「仲介できる国」を求めている

いま世界は、

  • 米国:内政優先で国外の負担を減らしている
  • EU:分裂の懸念で戦略的余裕がない
  • 中国:和平仲介が信頼されていない
  • ロシア:紛争当事国

という状況にあり、「誰が和平仲介するの?」という空白が生まれています。

国連も安保理が機能不全。 世界のパワーギャップを埋められる国として、日本に対する期待の声も多くあります。

③ ハードよりソフト重視の日本型の和平調停

和平調停には2種類あります。

  1. ハード型(軍事圧力・安全保障保証)
  2. ソフト型(経済支援・仲介・信頼構築)

日本は②に圧倒的な強みを持ちます。和平仲介は軍事力より、信頼、経済支援、技術協力、長期的な復興支援の方が重要な局面もあります。日本型の和平調停モデルを模索することは十分に可能と思います。

④ 過去にも成功例はある

関与の度合いは浅く、小規模ではありますが、日本にも平和構築の実績はあります。これらの経験からの学びも総動員して考える余地があります。

  • 南スーダン停戦合意の支援
  • ミャンマー民主化支援
  • スリランカ和平プロセス
  • アフガニスタン・パキスタン復興支援
  • 国連安保理(非常任理事国として)、G7サミット等での外交調整 など

3.何が必要か ~「日本型和平調停」を実現する条件

日本が本格的に和平仲介を担うには、次の3つが最低限必要だと思います。

① 和平調停の専門部署の新設 

今のような縦割りではなく、一つの部署で、交渉専門官、国際法専門官、情勢分析官、通訳官(アラビア語・ペルシャ語・ロシア語)、PKO連携担当、JICA・国際機関連携などの専門家を集め、育成し、チームとして能力を獲得していく必要があります。

② 日本型和平パッケージの創出

他国と差別化するために、停戦後のインフラ復興、警察・司法制度改革、住民生活支援、教育・医療支援、難民支援など、調停後の復興フェーズを日本主導でパッケージ化していくことには強みを持っています。ここを活かすことが重要です。

③ 特使(Special Envoy)の常設

イスラエル・パレスチナ和平特使、ウクライナ停戦特使、ミャンマー和平特使、アフリカ紛争特使など、和平調停にたけた欧州では当たり前の制度ですが、和平の顔となる人材を常設の「特使」という形で作ることが必須です。

かつて、JICA理事長と兼務で臨時のアフガニスタン特使を務めていた緒方貞子さんと一緒に現地で働かせていただきましたが、臨機応変かつ分野横断的な対応を求められる紛争や復興支援の現場において、「特使」の存在は際立っていました。


4.モデルにすべき各国の和平仲介機関

日本が和平仲介機能を持つとした場合、既に類似の機能を果たしている他国から学ぶことは多くあります。
日本がモデルとすべき・参照すべき機関を示します。

➀アメリカ:国務省 紛争・安定化作業局(CSO)/特別特使制度

CSOが世界の紛争分析、危機予測、早期警戒、紛争当事者との仲介、民主化支援や停戦枠組みの調整を担い、さらに中東、アフガニスタン、スーダン、ウクライナなどに強い権限をもつ特別特使(Special Envoys)を配置する「特使モデル」が特徴です。
実戦部隊ではなく、個人に大きな交渉権限を付与した「和平の専門交渉チーム」によって、機動的で高い裁量をもつ仲介活動が可能になっています。

②イギリス:外交・英連邦開発省(FCDO)紛争安定化調停局

FCDOの中にある「紛争安定化調停局」が中心となり、紛争予防、仲裁・調停、国際監視団との連携を担う平和支援チームを運用しています。
法制度支援や民主化支援と和平調停を一体的に進める点が特徴で、ガバナンス改革と紛争解決を同時に支援する包括的なアプローチを採っています。

③フランス:外務省 アフリカ・中近東局および和平調停チーム

外務省のアフリカ・中近東局と和平調停チームが中核となり、中東和平交渉やチャド・サヘル地域の仲介など地域密着型の調停活動を展開しています。
言語力や歴史的背景を生かし、当該地域の事情を深く理解した上で交渉を進める点が特徴で、特使制度も積極的に活用しながら独自の影響力を発揮しています。

④ドイツ:外務省 紛争予防・安定化局

外務省の紛争予防・安定化局が紛争予防、停戦監視、民主化支援、治安部門改革、復興支援などを担い、EUやOSCEのミッションを主導する役割も果たしています。
軍事ではなく法治や制度構築を通じて和平を進める点が大きな特徴で、紛争の構造的な原因を解決することを重視する「制度志向型」モデルを展開しています。

⑤スイス:外務省 平和・人権担当局(PHRD)

PHRDは世界最高水準の和平仲介機能をもち、橋渡し外交や国際会議のホスト、「秘密交渉」など多様な手法を用いて、紛争当事者から非常に高い信頼を得ています。
永世中立国としての立場と、交渉専門国家としてのノウハウを組み合わせた独自の外交モデルが特徴で、日本が最も参考にすべき成功例の一つです。

⑥ノルウェー:外務省 平和と和解部

ノルウェー外務省の平和と和解部は、オスロ合意(イスラエル・PLO)、コロンビア和平、スリランカ内戦、ミャンマー和平など数多くの歴史的仲介を成功させてきた実績をもちます。
専門家が長期間現地に入り、当事者と信頼関係を築きながら調停を進める「現場主義モデル」が特徴で、政治的中立性と持続的な関与が成果を支えています。

⑦フィンランド:外務省 危機管理局 + 紛争マネジメント・イニシアチブ(CMI)

フィンランド外務省の危機管理局に加えて、元大統領アハティサーリ氏が設立した CMI(Crisis Management Initiative)が国際的に高い評価を受けています。
インドネシア・アチェ和平やケニア政治危機の仲裁などの実績があり、「政府+民間シンクタンク」のハイブリッド型によって柔軟で専門性の高い調停活動を展開している点が特徴です。

⑧EU(欧州連合):欧州対外行動庁(EEAS)紛争予防・調停部

EEASの紛争予防・調停部が中心となり、EUとしての外交力・財政力・多国籍専門家を結集して、ウクライナ停戦案、バルカン紛争の調停、イラン核合意などを主導しています。
大規模予算と多様な専門人材を背景にした「総合力モデル」が特徴で、多国間外交の強みを最大限に発揮する調停活動を展開しています。

⑨国連:政治平和構築局(DPPA)

DPPAが中心となり、特使制度、停戦監視団の派遣、国際仲裁などを通じて世界最大の和平仲介プレイヤーとして機能しています。
国際的正統性と広域監視能力をもち、各国では実現しにくい中立性と規模で和平プロセスを主導できる点が特徴で、紛争解決の「最終的な舞台」として重要な役割を果たしています。


日本が目指すべき和平仲介モデル

日本が新たに和平仲介機能を構築する際、最も相性が良いモデルは「ノルウェー型+スイス型」の組み合わせだと考えます。
中立性を背景にしつつ、専門の仲介部隊を持ち、バックチャネルを含む多様な交渉ルートを活用し、長期にわたって現地に関与し続けるという点で、日本の外交文化とも整合性があります。

特にノルウェーのように、専門家が現地に張り付き、当事者と信頼関係を築きながら粘り強く仲介を続ける姿勢は、日本外交に不足している部分を補う重要なモデルとなります。

組織設計においては、ドイツ型の「制度構築志向」と EU型の「多国間協調」を組み合わせることが望ましいと考えます。
制度構築を重視するドイツ型は、紛争予防から復興支援までを統合的に扱える点で優れており、多国間の枠組みを積極的に使いこなす EU型は、広範な国際協力を引き出すうえで非常に有効です。

日本が和平仲介に乗り出す際、この二つの強みを組み合わせた設計が最も機能する可能性があります。


おわりに

新たな組織を立ち上げる際、初期設計は非常に重要です。そこを間違えると、その後の修正で大規模に軌道変更していくことは極めて難しくなります。

上記のような現状、日本の強み弱み、他国の機関からの学びを総合して、日本型の新たな和平調停の在り方を提案しつつ、日本政府内に機能的な専門機関を立ち上げていくことが必要です。